窒息事故

国民生活センターの意図がどうあれ、政府は「消費者行政」のいけにえを求めている。
明確な法的根拠もないまま、ただ叩きやすい獲物が狙われる状況は避けられないだろう。

想像力の欠如というやつ。id:Beyondこんにゃくゼリーにさしたる親しみがなく、売られなくなっても困らない一方で、国民生活センターに信頼が厚いから肯定する。
我々は、喉を詰まらせて死んだ子供を我が子のように感じるだけの心がないから、理性によって反発する。どちらも想像力の欠如だ。

よし、たとえばだ。

食べ物による窒息事故を防ぐために
http://www.fsc.go.jp/sonota/yobou_syoku_jiko2005.pdf
ナッツ類、丸いあめ、ブドウ、プチトマトも、みんな「そんな喉の詰まらせやすいものを売っている店が、作っている農家が悪い」という理屈だって成り立つのだ。

プチトマト、赤くて小さくてかわいらしくて、いかにも乳幼児に食べさせたい野菜だけど、とても危険だから、製造禁止ということはできる。もっと大きいトマトだって作れますよね?わざわざあんな形にしたのは問題。「もち」だって危険というけど、プチトマトは「野菜」です。ほかの野菜と比べてどれだけ危険だか考えてみましょう!ほらね。やっぱりプチトマトは製造禁止にしなきゃ、とかね。

まぁいい。なにを売ってよくて、なにが悪いかは国民の合意によって決めるのだ。たとえ俺が、自動車なんてあれだけ人を轢き殺しやがって気違いの乗るものだと思っていても(本気さ)、いきなり大臣がトヨタや日産に圧力をかけて製造を停止させるわけにはいかない(企業の規模と社会的地位とか献金額の話じゃないぜ。正統性の話だ)

明確なルールがなくては。法律か、省令か、業界団体のガイドラインか。明確な基準がなければ。

大臣が企業の代表者を呼び出して、圧力をかけて、販売を止めさせるなんてあってはいけない。行政は裁判所ではないのに、行政処分という権限が肥大しすぎている。まして今回はその手続きさえ経ていない。国民生活センターも、マスコミを利用した「風評」という手段で、半ば行政処分のような力を振るっているのは、悪いけど、問題だと思う。決して嫌いな行政組織ではないけど、しかしやはり問題だと思う。いやわれわれは管轄官庁に勧告しているだけですといっても、実態としてそういう分を超えている。

まずルールを作らなくては。こんにゃくゼリーの危険が、看過できないという国民的な合意があるのであれば、法案を出せば十分な数の議員が賛成するはずだ。それに窒息死に関する明確な安全基準を作らなければ、今は消費量の少ないほかのゼリーまたは菓子が、問題の種になるかもしれない。

「単になじみのある国民生活センターに肩入れしたい」とか、「郵政の失点を取り返して党内で重きをなしたい」とか、「社民党支持者の一部層の不快感を汲んでいい顔したい」とかじゃなくて、本当に消費者行政を考えるなら、「まず圧力から」じゃなくて「まずルール作りから」でしょう。

今回の行動は、ちっぽけな騒ぎにみえて、消費者庁の今後の性格を占うものだと思う。