この「混合診療はダメ」の記事のどの辺りが気に食わないかというと…

ニセ科学が日本の医療を食い散らす日
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090303/1236019567

こんな記事、「冷酷」「無慈悲」と言われちゃうぜ。主に俺に。
訴訟まで起こして混合診療を解禁にしたいのは、「悪徳の保険会社や医師に操られた愚かながん患者」というより、「治療が大変で、全額負担に不当な思いを抱いているがん患者」だべ。

というか、保険適用外の治療というのはそれだけでとてもお金がかかるわけで、大変で大変で大変だべ。

記事の書き手はどう考えたんだ。
「そいつらはブルジョワだから同情に値しない」「自己責任」って思った訳じゃないよね。

要するに混合診療解禁の危険性を訴えるにあたって、保険適用外の治療を選んだ患者の事情を重くみなかった…多分「そういう患者は啓蒙してやればもっと適切な保険適用治療だけを受けて、治癒してめでたしめでたし」あるいは「適用外の治療で治る可能性は低いんだと説明し続ければ最後には希望を失って、あきらめがつき、めでたしめでたし」と思ったのかな。

あるいは、「気の毒だけどパンドラの箱を開くのを許す訳にはいかないにゃ。尊い犠牲にゃ。個人は社会のために我慢しなきゃいけないこともあるにゃ。がんばれ全額負担」と思ったのかな。

まぁ偽善的なおとしどころとしては、最後の「悲しいけど…これ社会主義の鉄則なのよね」が一番いいと思うんだ。

しかし、その場合は「もちろん有望な治療方法を、より迅速に保険適用対象にできる仕組みを整備することが急務ですにゃ」とかフォローを入れて、ボクは適用外の治療を受ける人の立場にも配慮してますよなポーズを取っておけよ。昔の朝日新聞みたく。

保険適用外治療を必要としない大多数に向かって、なぜ今の制度が有益で「正しい」かを説き、今の制度で救われない「正しくない」少数には涙をのんでもらう。まぁよきエスタブリッシュメントではあるが、その保守っぷりを糊塗するための作法ってもんが、あるんではないの?すぐ革新の側に食いつかれるよ。まぁ戦わないから無敵なんだけどさ。あと俺も今のところ保険適用外診療は要らないんで、間違っている少数に涙をのんでもらう体制に文句はないんだけどさ。ちょっと、そう赤裸々にやられると立場が不安になるじゃん。な?

【追記】2009/03/04
まとめると、保守派は自らの偽善に自覚的になり、現状に不満を持ち変化を求める人々の気持ちを逸らすサムシングを常に用意しておきましょうというお話。最悪なのが変化を求める人々の威圧。奴らは鬼畜米英とかソ連とか保険会社とか悪徳医師の手先だとかいう話。

威圧さえしなければ、偽りの希望でだまし通せるのに、敵意をぶつけたら「こいつらと和解なんてできない。権利は戦って奪い取るしかない。見てろ!たとえ世界を敵に回してでも俺はナナリーを…」ってなっちゃうじゃん。困るだろ?保険屋はにっこりしてそのバックアップにつくだろうし。

…ははぁ「全面解禁」はダメという言い回しがあるね。ひょっとして、「現状、保険適用は認められないが、海外などにおいて多くの治療実績があり、将来は保険の適用対象となる可能性が極めて高い治療法」などの別カテゴリーを作り、それに限定して混合診療を認める、みたいなアレを想定しているのかな。だとしたらそういう、妥協案も書いておくといいお。その問題点も併記してさ。

【追記】2009/03/05
まぁ…どこかしら緊張感がないのは…俺の文章も含めて「こんなネットの片隅のゴニョゴニョを、保険適用外の治療を受けて暮らしが青息吐息の人は見ちゃいないだろー」ってことですよ。保険適用外の診療だって、治療法「そのもの」以外の部分に保険を適用してもらえればいくらか安くなる…けど…ね…レントゲンだけでも…とかさ…もしかして、適用外の診療を受けてる患者は全員超リッチで、そのへんすべて割り切ってるとでも思ってんのかねぇ…。

はてな界隈の流行語「藁人形」ってのがあるじゃん。はてなーが思春期になったり盛りが付くと連呼しはじめるアレ…どうしてこう…ボクはウスノロです…って宣言してるような単語ばっかり好きなんだろうね彼等は…日本語には美しい罵倒語がいくらもあるのに…

その藁人形なんだけどさ。最大の問題は、丑の刻に五寸釘を打ってる姿を、他人が見たら怯えるってことだよ。意味がないんじゃなくて「怖い」「恐ろしい」「嫌だ」と思わせるってこと。
混合診療に向かって打ち込んだ釘が、誰の胸を痛めつけるのか、ちゃんと考えてるのかしら。

【追記】2009/03/05

混合診療全面解禁は戯れ言だ
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090305/1236222631
フォロー記事が出てるお。アリバイ的に注釈があったじゃんとか、まぁそういう話も含めてオーケー。本文の最後に続記事へのリンクを追加したのもフォローとしては的確ではなかろうか。

あと漢方と鍼灸は保険適用だど。近代医学が完全に仕組みを解明できていないものを「効果」を優先して飲み込んでしまったのは問題だと思うけどね。ただしすでに通常の医療として認められた漢方や鍼灸を、その流派によって差別してインチキ扱いすると、代替医療の側に押しやる恐れがあるから、気をつけようと自戒。つまり、身内が鍼灸で気とか経絡とか言われても、「その医者おかしい!」「ほかの先生にかかろうよ」とやたら吹いて回らんようにしよう…。うう…。
ただ代替医療もまた「保険適用」に潜り込む道を探っていることも、混合診療の問題とともに忘れてはならねだ。特に漢方はアヤッスィー裾野が野放図に広がってる世界なのは、皆さん花粉症対策のネット広告でご存じと思います。俺もびっくらしただ。俺が怖いのは、保険適用になると、健保がぶっとぶより、身内があの変なの信じるんでねぇかってことだ。ま、脱線だな。
漢方とか鍼灸…ならいいや…で思考停止してはなんね。特に医師は。

ところで、こうした混合診療の「緩和」の問題点というのは…もうめんどくさいから指摘したくないお。上記の記事でも、なしくずしは良くないという話をしてるから、それでだいたいいーんじゃね。

現状で、科学的な評価に基づいて規制のある混合診療が認められている以上、全面的な混合診療解禁という主張は悪徳医者、代替医療、保険屋の利益誘導でしかにゃーということは明らかなのだにゃ。奴らは患者の味方ヅラをするし、そこに騙されるヒトもでてくるけれど、ご注意くださいにゃー。

…あー。うー…

【改変】厚労省は建前として科学的な評価に基づいて規制のある混合診療を認めるようになったが、全面的な混合診療解禁にはいたっていない。その規制は不合理な厳しさで、うわべだけの譲歩に過ぎず、以前として患者が欧米のような進んだ治療を受ける道は険しい。医療費抑制の名の下に患者を見殺しにする悪政が、患者や勇気ある医師の理解者ヅラをしても、そこに騙されてはいけない。勝利の日まで戦い続けよう!

みたいなね。現実的な戦術として、推進派は、評価制度内に浸透を図ってるだろうけど。

ま、プロパガンダがお上品なら支持者が増えるというものでもないから「悪徳」「騙される」を叫んでも悪くはないとは…思うよ。すでに「騙された」人はどう思うかは分からないけど。実際は社会的地位を犠牲にして効果の分からない新療法に踏み込む医師が悪徳とばかりはいえないけどね。その真剣さが患者を魅する力というのは…。これもきっちりデータをとらないと。たとえば、活性化自己リンパ球移入療法をやると大儲けができるのかどうかとか。
新療法で儲けてる医師が多ければ、悪徳の連呼は効果があるけど、その割合が少ないと、もちろん逆効果だべ。ああ、そういうの調べるのはほかの人の役割なんだべなー。誰だろ。俺には絶対むりだ。


あ、そうそう

2008年にはじまった高度医療評価制度は、この判決に対するリアクションと考えられるでしょうにゃ。「保険外医療にはアヤシイものがあり、安全性を考えると混合診療は認められない」と裁判で厚労省が主張したタテマエに沿った制度改革だと一定の評価はできるのではにゃーかと考える。
という当たりは、識者の解説としてへー、と受け取りますが。それ、訴訟というアクションが厚労省を動かし、変革をうながしたと読めるのでもうちょっとこう、書き方はなかったのか。活性化自己リンパ球移入は「慎重な医師」が「インチキ」と呼ぶようなものなのだろ。ちなみにこの治療法、リンパ球を増やしてもう一回体に戻せば癌を退治するっての、説明は読んだがそれが効くのか効かないのかさっぱり分からんけど。

まぁその、実際には混合診療禁止の欠点をどうにかしたいと思ってた役所の自主性が大きく、訴訟はどうってことはなかったとか、いう話を打ち出しとけばいいのに…。じゃぁ次の変革も訴訟や解禁側のアクションによってもたらされるのですか?そして、また「慎重な医師」が義憤に燃えてブログで「インチキ」と叫ぶ一方で、大学病院などで施術が流行し、おとなりのブログで「ここまでの部分的解禁は認めるがやはり全面解禁はいかん」とかゴニョゴニョしてるあいだに、また解禁派が次の訴訟を…。

やべ…ありそう…すげぇありそう…。

そうだ。それと、新療法を成功させた医師としての名誉欲ってのも忘れちゃいけないな…必ずしも直接的な地位とか権力でなくてもだよ。訴訟で高度医療評価制度を勝ち取ったとかいうことになればちょっとしたハクもつくしね…それを「悪徳」と呼びうるのかどうか…。じゃぁ医師からそういう情熱を奪い取り、患者への情け深さだけで技術の進歩はあるのかというと…これは「慎重な医師」だって首を横に振らざるを得ないだろう。実験台にされる患者はたまったもんじゃ…いや、それでも生きたい…。