死体は倫理的か

曲がりなりにも底抜けにアレな左翼なので、形而上学的なことも言わないとな!

死体は倫理的だろうか?
http://d.hatena.ne.jp/Yagokoro/20080711

まず、死体は放っておくと腐る。
とても臭かったり、疫病の感染源になるし、衛生上よくない。
(もちろん、腐っても臭くない、と感じる人もいるが、ちょっと特殊だと思うので考えないことにする)

しかも死体は、そういう自分に対して腐るのを止めたり、消臭したりといった周りのための配慮をしない、けっこう迷惑なやつである。もちろん防腐措置というものがあり、自らホルマリンの水槽に浸かって息絶えたりといったけなげな行動をとって、死体になってからの迷惑をあらかじめ緩和しようとする人も、いないではない、かもしれない。
しかし、やはり少数であって、腐った死体を臭くないと感じる人と同様、考えないことにしたい。

また死体は場所をとる。特に人間のそれは。今日の日本において、死体は火葬にしても灰を骨壺に納めて管理することが、半ば家族の義務になっているし、墓に納めるとなると、その維持費を寺などに払わねばならない。

家族にとって、負担になるくせに、それを自らやめようという意志を持たない。
さらにいえば、死体は…他人に善や倫理を要求しない!のである。お年寄りが、骨壺をかかえてバスの中で立っていて、優先席にキレやすそーな高校生が座っていても、死体は席をゆずれ、とか一言も発しない。

正直こういう態度を倫理的と呼ぶのは疑問がある。

ただし赤ん坊や、認知症の極度に進んだ老人、精神異常者などは、倫理的であろうとすることが、そもそも能力的にできないのであって、死体もそのたぐいであるとすれば、いたしかたない。

…いたしかたない…本当だろうか?
本当に死体は、できないのだろうか?
できるのに、わざとサボっているのではないだろうか?

そもそも倫理や善といった形而上学的な概念を自らに課したり、他人に求めたりするのは、一定の知性と責任能力を持った人間の義務と解されているが、そういうの面倒くさい、深く考えたくない、なるたけ余計な重荷は負わずに生きていきたい、みたいな連中もいるのである。

彼等(私もその一人ではある)は「純粋職責遂行者」と呼ばれるが、最大の特徴は、「職責は果たしてる」を理由に言い訳をしたがるということである。自分が善とか倫理について他人に要求しないことなどについて、いつも職責を持ち出す。

となりでお兄ちゃんがカツアゲにあってても「オレとは関係ないから。ほら今バイト中だし、カウンター抜けらんないし」といった言い訳をしつつ、カツアゲのはずが兄ちゃんがぶっ殺されちゃっても、「正直、そんなのオレの職責じゃねーし、ケーサツがなんとかすればいいだろ。あいつらの職責なんだから」といったケツのまくりかたをしがちである。

善や倫理というのは、個人の職責を超えて、「ある程度の常識に沿った行動」をとらせるための形而上学的概念であって、ぶっちゃけ通報ぐらいはするとか、仲間を呼んで数人で止めに入るとか、まあそういうことをせしめるのであるが、残念ながら純粋職責遂行者たちは、ま、やらんのである。

(で、そういう純粋職責遂行者が一定以上増えると、社会はどうするかというと、善や倫理を他人に要求するようなおエラい方々が、「職務規定」を作って強制的にやらせるのである。だがこの場合、純粋職責遂行者の職責の果たし方がおざなりになりがちなのは、言うまでもない)

死体は、こうした純粋職責遂行者に属するのであろうか?

答えは、YESだ。

彼等はいつも言い訳をしゃべってる。「死んでいたら口を利けない」というのは甘い。死体は無言のうちにものをいう、というのはよく知られた事実である。
じっと見れば分かるはずだ。

「いやーすいませんね。死体で。でもほら、こうして拝まれたり、供養されたりすることで、家族の絆っていうのかな、血統のアイディンティティの確認?まぁいわゆる死体としての職責は果たしておるんです。それ以上のことを求めないで下さいよ。死体なんだし」

というようなことを、だいたいにおいて黒い眼窩の奥とか、墓石の下のたたずまいの中で言っているのである。ちなみに、中には人体標本になったりと、兼業の職責を果たす例外もあるが、これも少数であって、深く考える必要はないと思う。

とすると、死体は職責を果たせない、というid:Yagokoro氏の定義もまた、残念ながら間違っている訳だ。

むしろ、自分が「職責」として決めた行動規範に閉じこもり、善や倫理について他人に要求せず、淡々と日々を過ごすその姿は、死体と「純粋職責遂行者」が同一の存在であることを示している。

ま、常々思っていたことだが、私の体は臭いし、なんか口の中とか腐ってるし、職責は毎日たんたんと果たしてるけど、子供の目の高さでタバコ持って歩いてるヤンキーの兄ちゃんがそばとおっても、倫理や常識にもとるとか注意しないし、見ないふりをしてるし、(そんなのケーサツの職責じゃん、とか思いつつ)

あー、これ「死体」だわ。左翼じゃないわ。やっぱごめん。だから形而上学的な話が無理だったんだわ。

ということで、touhou_huhaiは自分が死体だということに気づきましたとさ。